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高台の大窓

築40年の木造二階建て、分譲戸建て住宅の増改築である。敷地は南側に向かって下る雛壇造成された丘陵地の上部に位置している。建て主は、ここから見る眼下の街と、遠くまで続く空の景色に感動し、この場所から始まる新たな暮らしに想像を巡らせ、高台に建つ中古住宅の購入を決めた。

ここからの “眺望”を手掛かりとして改修の計画をおこなった。既存建物の構成は概ね受け入れ、必要以上の間取りの変更と、眺望への意識を妨げてしまう、即物的なディテールや新旧を対比させるような抑揚の強い空間表現を避けながら、前面に広がる景色を最大限に取り込んだ住宅の改修について考えた。一階では、開発当時のまま30度に保たれた斜面の庭に、サンルームの増築とひろびろとしたテラスの増設を行った。内外を緩やかにつなぐ中間領域を介して、一階の居室から外部へと生活の領域が広がる。景色に向かって張り出したテラスでは、色とりどりの住宅の屋根が視界に入り、目を遠くに向けるにつれて少しづつ小さくなる建物と、その間を縫うように移動する車や電車の様子を眺めることができる。二階では、南側の二部屋とキッチンを仕切っていた壁や建具を取り除き、風の通り道を確保した。さらには、建物の前面を横切っていたベランダを内部化し、部屋全体に自然光がいき届くように、全面開口部の縁側空間を新たに設けた。この大きな窓からは、街と空の境目を横断する山々のシルエットをパノラマで見ることができ、視界の半分以上は果てしなく広がる空の景色で満たされる。窓から注ぐ光と風を全身で受け止め、外に広がる壮大な景色に身を委ねれば、街や空と一体化したような開放感を味わうことができる。この贅沢な空間体験によって、住まい手は、視界の奥にあるであろう広大な地を想像し、移ろいゆく時間の流れの中を漂う自身の存在に改めて気づくのである。

日々の暮らしの中で、身近な領域に閉じることなく、常に隣り合う雄大な世界に目を向けたならば、私たちは現実と想像の境界線を越えて、さらに遠くの世界まで意識を向けることができるのではないだろうか。景色に向かって開かれた小さな住宅は、住まい手の心身を開放し、想像力を押し広げる装置として、生活に豊かさをもたらすのである。

建物概要

竣工 :2020.03

用途 :​専用住宅

規模 :木造2階建て

工事 :増改築工事

場所 :群馬県

担当 :根岸陽 

構造 :POTOS DESIGN OFFICE/岡地 貴文

施工 :建築舎四季

​写真 :早川真介

掲載

​新建築住宅特集

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