ねぎしけんちくスタジオ
Negishi Kenchiku Studio
さくげつ
群馬県桐生市は、江戸時代初期に整備された古い街道を中心に発展し、明治から昭和初期に織物産業で栄えた歴史ある地方都市です。当時の産業遺産が多数残された歴史的景観地区に、高度経済成長期に建てられた商業ビルなどが併存した独特の街並みが特徴的です。
近年は、繊維産業の衰退に加えて、少子高齢化による人口減少が著しく、消滅可能性都市にも挙げられているほど、都市としての魅力は減退し、市街地における空き店舗や空き家の増加が問題となっています。その一方で、残された産業遺産や古民家に空間的、不動産的な価値を見出し、積極的に活用する動きが少しづつ活発化してきており、都心からの移住者などが市街地で活動を始める事例が増え始めています。
「みせ」
市街地中心部から近い、木造住宅の密集地に建つ60㎡にも満たない小さな平屋住宅を店舗へと改修しました。
日本の伝統的な町家型店舗である「みせ」の構成を引用し、通り側に表土間を構えて出入口とし、店内が見通せる広々としたワンルームへと改修しています。「おもて」の土間に多くの商品を展示し、一段上がった「おく」で店内外の様子を伺いながら接客を行うことができます。天井は既存の小屋組みを現し、新旧異なる時間を併存させ、建物に留まる時間的価値を可視化しました。また、正面の大きな開口部は、通りから店内の様子伺うことができ、昼には表土間に陳列された、県内産の野菜や市内で焼かれたパンなどの新鮮な商品が「おもて」を飾り、夜になると窓からもれた照明の明かりが前面の通りを照らします。
1日を通して「みせ」の前を人が行き交い、客は厳選された商品を手に取りながら、気さくに出迎えてくれる店主との会話を楽しんでいます。
街の一部を開くリノベーション
このプロジェクトは、UNIT KIRYU株式会社の企画・協力のもと、DIYワークショップなどを行い完成しました。
空き屋となった古い建物を壊すことなく、リノベーションすることで、古い町並みの景観を保全しながら、空き家の価値を街に還元することに成功した一つの事例です。街の中にひっそりと残された隙間のような場所に目を向け、街に開いていくことで、減退した地方都市の可能性を広げる取り組みに期待しています。
建物概要
竣工 :2022.03
用途 :店舗
工事 :改修工事
場所 :群馬県桐生市宮本町
担当 :根岸陽
施工 :(有)星野工務店/星野諭
ねぎしけんちくスタジオ/根岸陽・大里謙
株式会社アンカー
協力 :UNIT KIRYU
写真 :早川記録/早川真介